季節と病気 


 私達の体は一年中、いつも同じ状態ではありません。それはそれぞれの臓器によって最も盛んに活動する時期(季節)があるからです。したがって、病気や症状の表れ方も季節によって違ってきます。春は肝臓の季節にあたり、一年で最も働きが活発になります。そしてこれまで出せないで肝臓に溜まっていた毒素が盛んに出てきます。つまり毒素を外に出して病気を治そうとしているのです。
 東洋医学では肝臓は「木」の性質を持つ物とされ、この時期、肝臓が活発に働いて病気を治そうとしているときに、「木」もこの活動に一役かっています。特に杉の木が──。おわかりですか? つまり、春になると毎年騒がれ、嫌がられている「花粉症(アレルギー性鼻炎)」は、実は肝臓の排毒(毒出し)だったのです。花粉による目のかゆみ、充血、くしゃみ、鼻水など、全ての症状はこれまでに体に溜まっていた毒素が出ている状態なのです。
 私達の体は、このようにいろいろな機会をとらえては病気が悪化しないように毒素を出し続けているのです。
 頭寒足熱(上半身は涼しく、下半身、特に足もとを暖めて内臓の働きをよくする)を続けていると排毒をする力が強くなります。そのためこれまで出せなかった毒素が出てきて花粉症が激しくなったり、また逆に毒素が少なくなって前年より軽くなったりします。しかし、どんな場合でも症状を無理に止めないようにしてください。出るもの(毒素)が無くなれば、症状は消えていきます。
 また、春は肝臓の特徴である「傲慢」や「卑屈」という感情も表れやすくなり、精神的にも不安定になりがちです。できるだけ感情を波立てないようにしましょう。
 春は肝臓の薬穀(良い薬になる穀物)である“麦”の収穫の時期でもあります。肝臓のためには日頃から“麦”や麦でできているパンや麺類を少しずつ食べるようにすると良いでしょう。

 暑い夏! しかし、私達の体はこの暑さを上手く活用して、健康になろうとしています。勝手に冷房などを入れて涼しく過ごそうとすると後で大変なことになります。
 夏は“心臓”の季節にあたり、これまで心臓が働いて溜まった疲労を、一気に吐き出し始めます。つまり、毒素を外に出して心臓の病気を治そうとするのです。そしてこの毒素は主に“汗”という形で出てきます。夏の暑さは大量の汗(毒素)を出すために大切な役目を果たしているのです。ですから、気持ちが悪いなどと言って無理に汗を止めようとすると、最終的には心臓に負担がかかります。最近心臓病が増え、死因のトップに挙げられるようになりましたが、毎年やってくる心臓の毒出しの機会を、現代人は冷房などでほとんど無にしているのですから当然の結果と言えるでしょう。
 他の季節にスポーツで汗を流したりサウナ風呂に入るより、夏にできるだけ体を使って働きたっぷり汗をかく方が、体には良いのです。
 また、汗を多くかくと体が疲れるという人がいますが、これは汗のせいではなく足元の“冷え”が原因です。夏の強い日ざしで肩や頭などが一層熱くなった結果、足元は逆に冷え、これが内臓の働きを低下させて、“夏バテ”を引き起こすのです。
 夏こそ足元の冷えに注意して、靴下を多めに履くことを心がけましょう。内臓の働きは活発になり、汗はよく出るようになります。こうして出た汗は、暑苦しい汗ではなく、気持ちの良い汗に変わってきます。特に心臓病の人や高血圧、リュウマチの人はつらい時期ですが、足湯や半身浴をして足元を温め、少しでも毒素を汗にして出すように心がけてください。汗を吸って湿った衣服はこまめに取り替えるようにしましょう。
 夏は、心臓だけでなく“消化器(胃・膵臓)”の季節とも重なっています。靴下を履いて足元を温かくしていても、食欲を低下させて食べ過ぎによる毒素をつくらないようにするために、“夏バテ”のように食欲がなく、胃腸の具合が悪いという症状が出てくる場合があります。しかし、これも消化器が疲労などの毒素を出して治ろうとしている状態ですから心配ありません。夏の食欲不振は体には必要なことですし、これによる“夏やせ”も心配ありません。飲みすぎや食べすぎに気をつけていれば、秋風の吹く頃、心臓も消化器も毒出しを終わり、すっかり調子の良くなった自分の体に会えるはずです。
 季節の終わる半ヶ月の間を“土用”といいますが、このときはいつも“消化器”の毒出しにあたり夏の土用は消化器と心臓の両方の毒出しが重なるため、特に食べすぎには気をつける必要があります。「土用のうなぎ」が無意味であることは言うまでもありません。
 夏には、麦茶、冷や麦、そうめんなど麦で出来た食物が食卓に上りますが、それは麦が肝臓の“薬穀”(薬になる穀物)と呼ばるため、昔から人々が、肝臓がよく働くように麦で出来た食物(ビールやウィスキーなどの酒類を除く)をうまく食事に取り入れてきたからなのです。

 秋は“肺”の担当の季節です。そのため、肺の病気が出やすい季節になるわけですが、正確には肺に溜まっている毒素が出てくる季節、つまり肺が毒素を出す事によって病気を治そうとする季節ということになります。肺は喉や鼻から咳や鼻水などの形で毒素を外に出そうとしますから、春ほどではないにしてもアレルギー性の症状なども起きやすくなります。また、肺は大腸、皮膚ともつながっているため、この時期に下痢が続いたり湿疹が出たりすることもよくあります。これらの症状を薬などで止めると毒素が元に戻ってしまい、その結果、肺炎を引き起こすこともありますから、むやみに止めないで症状を出し切ってしまうことが大切です。
 秋の野山では触るとかぶれる山漆やはぜの木が色づいて、都合よく皮膚から毒素が出るのを助けてくれます。そして、肺にとっての薬用の穀物である“稲”が収穫を向かえます。どのような症状の場合でも、頭寒足熱(上半身は涼しく、下半身の特に足元を温かく)を心がけると、毒は出やすくなるので体も早くよくなります。
 特に、肺・大腸・皮膚は排泄機能を受け持っていますから、便秘がちの人や皮膚の弱い人は肺が悪いということになります。呼吸は腹式で行い、いつもできるだけ息をはく方に気をつけるようにすると、肺の毒素がよく出ていきます。
 また、肺の悪い人は「憂う・悲しむ」と言われるように物事を悲観的に捉えがちで、逆にこのような思いを強く持つと肺が悪くなるとも言えます。“物思う秋”も程々にして、病気を作らないようにしましょう。

 肺は乾燥に非常に弱い臓器です。ですから、空気の乾燥の激しい“冬”はどうしても肺の働きは低下しがちです。咳がよく出るのは働きの衰えた肺の毒素(二酸化炭素など)をできるだけ出そうとしているからなので、薬などでこれを止めることはよくありません。充分に足元を温めていればいくら咳をしても体力は消耗しませんし、気管支炎や肺炎になる心配もありません。乾布摩擦を合わせて行うと効果があります。
 また、冬は肌が荒れやすくなりますが、これも皮膚が肺の働きを代わって行っていることが原因です。つまり、皮膚呼吸によってより多くの毒素を出しているため肌が荒れた状態になるのです。アトピー性皮膚炎や乾性の湿疹が出るのも同じ理由からです。
季節の変わり目
 季節の変わり目は全て消化器の毒出し(排毒)の時期に当たります。消化器以外の臓器の排毒が1年に1回なのに比べ、消化器の毒出しが年に4回もあるのは、日ごろからの食べ過ぎによる害が多いということを示しています。季節の終わり頃になると決まって風邪・発熱・下痢・嘔吐・胃の痛み・食欲不振・倦怠感などの症状が表われる人がいますが、全て消化器の排毒作用です。つまり、一つの季節の間働き続けた胃(腸)や膵臓が次の季節に備えて、これまでに溜まった疲労などの毒素を外に出しているのです。また、この時期に消化器以外の腎臓・心臓に症状が出てくることもあります。これは、消化器の毒素が腎臓・心臓に送られ、症状が出ているのです。心臓は、心臓そのものに症状が表われるのとは別に、高血圧や脳溢血、脳血栓などと言った血管系統に症状が出ることもあります。季節の変わり目にこれらの症状で倒れる人が多くなるのも原因は食べすぎなのです。また、肩や腕(左側が多い)の痛み、痺れなどを訴える人もいますが、同様に、消化器と心臓の毒素が送られて起きているのです。
 腎臓は、腎臓そのものだけでなく、関わりの深い部位に毒素が送られていって症状が出ることがあります。例えば耳の病気(中耳炎・難聴など)がこれにあたり、血液を管理していることから、よく鼻血という形で毒素を外に出したります。
 また、この時期になるといつも気分が落ち込んだり、すぐれないという人もいます。この状態も広い意味では排毒にあたります。つまり、心と体は一体の物で、消化器が悪いと心の状態は無気力でくよくよしがちになるのです。このようなときも『頭寒足熱』を実行すれば、血行が良くなるため体調は改善され心も落ち着きます。

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